西尾孔志

20110209ナシム・アマウシュ『さよならゲーリー』

| コメント(0) | トラックバック(0)
ナシム・アマウシュ『さよならゲーリー』
my French Film Festival

インターネットで世界同時に観ることができるフランス映画祭「my French Film Festival」で、傑作と出会った。『さよならゲーリー』。監督はNassim Amaouche。

南仏。産業が寂れた町。もう何も大きな事件は起こらないこの町に、数年ぶりに刑務所から帰って来た男の、その父や弟、周囲の町の人々とのささやかな生活を静かに見守る作品だが、細部の描写のユニークさに惹き付けられる。
ファーストショットの線路を走るメルセデスベンツ、家から飛び出してくる自転車、障害のある男の乗り物でありながら何故か友人知人のタクシーと化している電動車椅子など、乗り物とその運動の愉悦で心地良く映画が始まる。登場人物も、隣の奥さんと恋人関係である父、その奥さんの自閉症の息子、ヤクの売人をしてる車椅子の男、歌のうまい異国の女、スーパーでネズミの着ぐるみを被る弟など、ユニークだが過度にキャラクター化されていない、血の通った人々が生き生きと描かれる。
そんな中、男は父と二人、ある大きな機械の修理を始める。その機械が動き出すラストシーンが素晴らしい。冒頭にいくつか乗り物を印象づけておいての、あのラスト。語りのバランスが絶妙で見事に裏切られた。公開されるか分からないのでネタばらしはこの辺にしておくが、産業が死んだと思われた町とそこに生きる人々が、「まだ死んでないぞ!」と心臓の鼓動を高らかに鳴り響かせる、素晴らしい人間讃歌であった。

例えば日本のサブカルチャーで言うところの『セカイ系』に、リアリティーを持たすとこういう映画になるんじゃないかな。日常生活規模のマジックリアリズムというか。あと、細部には北野武の影響はあるように思えた。
以前、イ・チャンドン監督から『物語の欲望に引っ張られない』という話を聞いて、まさに『ゲーリー』はその上品さがあった(もちろん過度な物語も好きですが)。

あと個人的には僕も父親が1人でやってた町工場を手伝ってた時期があり、その辺も重ねて見た。あのラスト、父にも見せてやりたい。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.damdamtuushin.com/mt-tb.cgi/108

コメントする